特養の虐待事案に関するUビジョン研究所報告から No1

 厚生労働省が発表した『令和4年度度高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果』によると、養護者による虐待と判断された件数は16,669件でした。前年度より1.5%の増加です。一方、介護施設従事者等による虐待は、856件で、前年度より15.8%の増加となっています。

 虐待のあった施設等のうち、過去にも虐待が発生していた割合は21.3%でした。つまり、全体の5分の1は虐待を繰り返している施設等、行政の「指導等」が効果を奏していない施設等です。

 このたび、公益財団法人Uビジョン研究所(理事長 本間郁子氏 高齢者生活施設の認証・評価を行う機関として活動)が、『認証・評価機関から見た特別養護老人ホームの虐待事案における発生要因の分析と対策・考察~2022年9月~2023年12月までにメディアで報道された27件の虐待事案から~』(2024年3月。以下、『Uビジョン報告書』と略記(特養ホームおける虐待の発生要因分析とまとめ.pdf (u-vision.org))を発表しました。

 『Uビジョン報告書』が扱ったメディア情報は、データとして限られたものだと思いますが、Uビジョン研究所は、一定の見識と豊富な施設現場の訪問・観察・評価経験をもとに、その情報の分析と対策の提言を行っています。そこには、高齢者虐待防止研修に携わってきた者として、頷けるものが多くありました。

 そこで、この『Uビジョン報告書』の内容を何回かに分けてお伝えし、若干のコメントをしていこうと思います。 

 まず今回は、『Uビジョン報告書』が取り上げた27の虐待事案のいくつかを紹介します。

 【身体的虐待】 ・87歳の女性を床に引き倒し、左足の太ももの骨を折る重傷を負わせた。・92歳の女性の頭を平手で殴り、両腕を枝のように折った。反応がなくなったのでポットのお湯をかけた。死亡。

 【介護放棄】 ・おむつ交換を怠った。紙おむつや尿漏れパットが不足したため、55名に必要なおむつ交換をせず、紙おむつの一部を切り取ってパッド代わりに使用。さらに、おむつ交換せず、衣類が濡れるほど失禁させていた。(他にも心理的虐待、経済的虐待を認定)

 【心理的虐待】 ・3人くらいの入居者に「おむつにするんだよ」「なんで立てないのにトレイに行くの?」「早くやれ」「何やってんだよ」と暴言。

(『認証・評価機関から見た特別養護老人ホームの虐待事案における発生要因の分析と対策・考察~2022年9月~2023年12月までにメディアで報道された27件の虐待事案から~』より)