U ビジョン研究所報告(No6):職員教育体制とちょこっとカンファ

6回目のテーマは職員教育についてです。
『U ビジョン報告書』『(『U証・評価機関 から見た特別養護老人ホームの虐待事案における発生要因の分析と対策評考察~2022年9月~2023年12月までにメディアで報道された27件の虐待事案から~』『(2024年3月)では、虐待発生要因として③職員教育体制の不備があることを前提に、個別指導に重きを置いた職員教育体制の強化について言及しています。


     できること・できないこと、得意なこと・苦手なことは人によって異なるの  

     で、知識・技術の一定水準を確保するために、人との向き合い方、考え方を

     ていねいに説明し、相手の立場に立った支援について、個別に指導していく

     体制が重要である。

     また、職員が自分に対する高齢者の行為に怒りを感じたとき、高齢者はその

     日の気分や体調によって症状の変化や感情の起伏があるということを理解す

     ること、そのことによって自分の許容範囲を広げ、柔軟に対応できるよう教

     育する体制の整備が求められる。


たしかに、理念や基本的知識を職場研修あるいは外部研修で一斉に学ばせるだけでは十分ではありません。先輩職員が職場でやって見せ、説明し、実践させて価機と指導を行うという個別指導の、OJT(On『the『Job『Training)が重要であることはまちがいありません。


下の表7に見るように、高齢者施設における虐待発生要因のトップは、「教育評知識評介護技術等に する問題」(56.1%)で、二番目が「職員のストレスや感情コントロールの問題」(23.0%)です(『U令和4年度度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に する法律」に基づく対応状況等に する調査結果(添付資料)』)。

虐待発生要因

職員の個性や能力に合わせた効果的なOJTの実施は、虐待予防につながります。


しかし、人材をやりくりしてOJTを一定期間実施したとしても、高齢者の言動に、職員が戸惑い、オロオロしてしまう、あるいは、感情的に反応をしてしまう、どうしたらよいか悩んでしまう、といったことはいくらでもあると思います。それは、新人職員に限らないでしょう。


こうした体験を「失敗してしまった」「恥ずかしい」「思い出したくもない」「人に知られたくない」こととして、職員が自分の胸にしまい込んでしまうとしたら、それは、その人が未熟だからというよりも、職場の雰囲気や日頃の同僚間、職員評上司間のコミュニケーションに課題があるからではないでしょうか。


同僚評先輩『評職場リーダーに「ちょっといいですか?」と聞いてみる、あるいは、同僚評先輩評職場リーダーから「どうした?何かあった?」と声をかけてもらう。そして、そのとき何があったのか、自分はどう思ったのか、話を聞いてもらって、同じようなことがあったときにどうしたらよいのか一緒に考えてもらう。こうしたことが、職場の介護の質を上げることに、また、不適切介護や虐待の予防につながるはずです。


人材不足による過重負担は、職場からゆとりを奪ってしまいます。ゆとりのないところでは、スタッフ間のコミュニケーションは乏しくなりがちです。職場リーダーや管理職は、この点を常に証識し、コミュニケーションを活性化すべく、意識的に声がけをすることが求められます。


声がけをしたら、『「驚いてしまう」、『「理解しがたい」返事が職員から返ってくる、『「突飛な」、「新奇な」意見や質問が職員からなされる。そうした場合であっても、それらを否定せず受止める。そして、 心を寄せて状況に適切な質問をし、話しを聴く。良い/悪くない返事や質問『評意見には、感謝や称賛、ねぎらいなどの肯定的価機の言葉をかける。こうした職場リーダーや管理職の態度が、職場のコミュニケーションを活性化し、職場の「心理的安全性」を醸成します。


職場の「心理的安全性」とは、職場で質問や意見を言ったら、「そんなことも知らないのか?」「何を言っているの?」と言われるのではないか、職場に敵を作ってしまうのではないか、と心配することなく、安心して物が言える状態のことです。「心理的安全性」が高い職場は、離職率が低く、効果的なチームワークを可能にすると言われています。


『U ビジョン報告書』では、「利用者にかかわるすべての人が支援のあり方について発言できる場を作り、いろいろな側面から支援の方法を模索して実践できる体制が必要」と言っています。


私たち、安心づくり安全探しアプローチ研究会のメンバーである土屋典子が提案している「ちょこっとカンファ」は、そういう場づくりの一つの方法です。そしてこの方法は、職場の「心理的安全性」醸成に貢献します。


『「ちょこっとカンファ」は、介護の実践の場で行う、解決志向アプローチを援用した簡易的な事例検討法です。


職員がどうしてよいかわからないと困っているとき、職場リーダーが声をかけて、あるいは、当該職員が職場リーダーに申し出て、集まれるメンバーが短時間、集まり、みなで知恵を出し合います。


困っている場面やその類似場面で、意外にうまくいった/悪くなかったやり方(例外)を、また、やってみたちょっとした工夫(対))を探し出します。さらに、あらたにやってみたらという対)のアイデアを出し合います。みなでこれらを共有するとともに、当該職員は、やれそうなものをマネします。

 

できないこと、むずかしいことに焦点を当てて、その原因を掘り当てるより、なんとかできた方法、悪くなかったやり方、やってみたらうまくいくかもしれない方法を話合う。こうした話合いは、当該職員の気持ちを楽にします。安心して皆の前で困っていること、できないことなどを話すことができます。


このように、ストレングス(良い点、悪くない点)に焦点を当てた、肯定的なコミュニケーションは、職場に信頼感や支え合いの文化を生み出すとともに、職場の「心理的安全性」の醸成に寄与します。


また、この「ちょこっとカンファ」は、職場リーダーの負担を軽減します。1対1の個別指導や、職場メンバー全員への声がけは、職場リーダーに時間的、かつ精神的負担をもたらします。一方、「ちょこっとカンファ」では、その場面で集まれるメンバーが集まってみなで話し合います。職場リーダーの精神的負担はかなり違うはずです。


安心づくり安全探しアプローチ研究会では、「ちょこっとカンファ」の研修を行っています。ご要望があれば、安心づくり安全探しアプローチ研究会のホームページに掲載しているメールアドレスまで、ご連絡ください。


なお、以下のURLで「ちょこっとカンファ」の動画をごらんいただけます。世田谷区福祉人材育成評研修センターさんから了承を得ましたので、ご紹介させていただきます。
https://www.setagaya-jinzai.jp/news/article-20220531115935