Uビジョン研究所報告(No4):職員配置基準

 4回目のテーマは、Uビジョン研究所が認証・評価事業を通して考察した、施設内虐待に関わる社会的な発生要因と対策です。

 『Uビジョン報告書』(『認証・評価機関から見た特別養護老人ホームの虐待事案における発生要因の分析と対策・考察~2022年9月~2023年12月までにメディアで報道された27件の虐待事案から~』(2024年3月)では、発生要因として、①職員配置基準の低さ、②安全最優先という考え方、③職員教育体制の不備、④経営者・管理者の社会的使命感の欠如、⑤監査実施率の低さ、をあげています(なおこれらの文言は、『Uビジョン報告書』の文章を副田がまとめて表現したものです)。

 

①職員配置基準の低さ、について『Uビジョン報告書』は、つぎのように述べています。

    施設入所者の要介護度(2022年度の平均要介護度3.97)や、認知症

    (認知症 日常生活自立度ランクⅡ以上が75.3%。2013年介護サービス施設・

    事業所調査による)、死亡退去者率(67.5%)の数字から、現在の特養が、

    介護にどれだけ人手を要する状態なのか容易に想像できる。

    

    それにもかかわらず、厚労省は重度者支援に適切に対応できる職員配置基準

    の見直しを、人権が守られる介護に必要な職員数の検討を行ってきていない。

    それどころか、令和6年度の介護報酬改定では、生産性向上(介護ロボット

    やICTの導入)に先進的に取組む施設には、特例として、職員配置を現行の

    3:1から3:09(入居者:介護職・看護職)に緩和するとしている。

    この緩和は、夜間帯の職員数を減らすことにつながり、生産性向上による

    職員の負担軽減をもたらさないし、夜間帯に多い虐待を防止することは

    できない。

 

 この職員配置基準の緩和は、「見守り機器等のテクノロジーの複数活用及び職員間の適切な役割分担の取組等により、生産性向上に先進的に取組む」特定施設に対して、「介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減が行われることを確認した上で」特例的に実施する(令和6年6月施行)というものです。

 

 特定施設は、ご承知のとおり、介護保険が適用される指定介護施設のことで、有料老人ホーム、ケアハウス、養護老人ホームサービス付き高齢者向け住宅(一部)がその対象です。これらの施設の入居者の要介護度は、一般的には、特養入所者のそれよりも低い。しかし今後、人材不足が一層進む中で、この動きが特養にも適用されていく可能性は否定できないでしょう。

 

 厚生労働省は、すでに令和3年の介護報酬改定時、従来型特養を対象として、見守り機器、インカム等のICTが導入されている場合(一定の条件あり)、夜間の人員配置基準を以下のように緩和するとしています。

    現行 利用者26~60人 職員2人以上 → 1.6人以上

            61~80人   3人以上 → 2.4人以上

               81~100人  4人以上 → 3.2人以上 (以下、略)

https://www8.cao.go.jp/kiseikaikaku/kisei/meeting/wg/2310_04medical/231120/medical02.pdf

 

 他方、全国老人福祉施設協議会は、令和4年に発表した『介護施設における介護サービスの生産性向上についてー規制改革推進会議医療介護ワーキンググループ提出資料―』の中で、生産性向上と職員配置基準について、つぎのように言っています。

     大幅な介護報酬改定は望めない中で、健全経営を維持するには生産性向上は

     不可避である。

     元気な高齢者等の介護助手としての活用、見守りセンサーや介護記録ソフト

     等のICTの活用等により、間接的業務の削減効果が期待できると評価され

     ている。

     だが、生産性向上の評価にあたっては、「ケアの質の向上」と「職場環境

     改善」の2つが適切に実現できたかどうかを総合的に把握することが重要

     である。

 

     本会の介護施設の現状は2.12:1であるが、これは利用者から求められ

     るケアの質を維持するための最低限の水準であって、3:1やこれを超える  

     水準であれば、以下の事項の実施は不可能または相当困難と言える。

        (1)運営基準できめられている週2回以上の入浴介助、(2)運営基準でき

        められている施設内の各種委員会や研修会の開催、(3)新人研修、(4)職

        員の有給休暇の取得、(5)レクリエーション、イベント、利用者とのコ

        ミュニケーション 等

     それゆえ、特殊条件の下で成立する基準を、介護施設一般に適用することが

     ないよう願いたい。

 

 言うまでもなく、上記の(1)~(5)の実施が困難な職場は、「ケアの質の向上」と「職場環境改善」が不可能な職場であり、虐待のリスクは高くなります。

 

 『Uビジョン報告書』は、「どんなにITを駆使しても人間のチェック機能が働く体制にしなければ、人の命を守ることはできない。」と言っています。全国老人福祉施設協議会の『介護施設における介護サービスの生産性向上について』では、職員配置基準の緩和については、上記の(1)~(5)が実施できるような「なんらかの特殊な措置を講ずることが必要」としています。

 

 人材不足という厳しい状況のなかで、生産性向上の取組みの導入と職員配置基準の緩和が不可避であるなら、ロボットやICTの導入への補助金よりも、アクティブシニアに加えて介護や福祉を学ぶ高校生・専門学校生・大学生等による介護助手活用により手厚く、継続的に補助金を出す、また、介護助手希望者の育成や施設とのマッチングを社協等が担うなど、種々の制度的支援をさらに充実していくべきではないでしょうか。

 生産性向上の取組みが職員配置数減で終わってしまうようであれば、虐待のリスクは高まります。

 

参考:

 厚生労働省『令和6年度介護報酬改定の主な事項について』

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001230330.pdf

全国老人福祉施設協議会介護施設における 介護サービスの生産性向上について』

medical02_0103.pdf (cao.go.jp『介護施設における介護サービスの生産性向上についてー規制改革推進会議医療介護ワーキンググループ提出資料―』)