第14回 高齢者虐待防止研修のご案内

2年ぶりに高齢者虐待防止研修を開催いたします。

下記にそのご案内をさせていただきます。

詳細は、添付チラシ、または、安心づくり安全探しアプローチ研究会のHPをご覧ください。

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日程:9月27日(土)9:30~16:30

場所:八王子の東京都立大学(5号館134号室)

内容:午前「虐待する養護者との関係づくり」(土屋典子)

   午後「養護者による暴力・ハラスメントへの対応」(副田あけみ)     

〇午前、午後とも自治体の職員さんによる実践報告とディスカッションの時間を設けています。

〇 原則、対面で行いますが、やむを得ない場合には、オンラインによる参加も可能です。ただし、オンラインの場合はペアワークやディスカッション等への参加はできません。

U ビジョン研究所報告(No6):職員教育体制とちょこっとカンファ

6回目のテーマは職員教育についてです。
『U ビジョン報告書』『(『U証・評価機関 から見た特別養護老人ホームの虐待事案における発生要因の分析と対策評考察~2022年9月~2023年12月までにメディアで報道された27件の虐待事案から~』『(2024年3月)では、虐待発生要因として③職員教育体制の不備があることを前提に、個別指導に重きを置いた職員教育体制の強化について言及しています。


     できること・できないこと、得意なこと・苦手なことは人によって異なるの  

     で、知識・技術の一定水準を確保するために、人との向き合い方、考え方を

     ていねいに説明し、相手の立場に立った支援について、個別に指導していく

     体制が重要である。

     また、職員が自分に対する高齢者の行為に怒りを感じたとき、高齢者はその

     日の気分や体調によって症状の変化や感情の起伏があるということを理解す

     ること、そのことによって自分の許容範囲を広げ、柔軟に対応できるよう教

     育する体制の整備が求められる。


たしかに、理念や基本的知識を職場研修あるいは外部研修で一斉に学ばせるだけでは十分ではありません。先輩職員が職場でやって見せ、説明し、実践させて価機と指導を行うという個別指導の、OJT(On『the『Job『Training)が重要であることはまちがいありません。


下の表7に見るように、高齢者施設における虐待発生要因のトップは、「教育評知識評介護技術等に する問題」(56.1%)で、二番目が「職員のストレスや感情コントロールの問題」(23.0%)です(『U令和4年度度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に する法律」に基づく対応状況等に する調査結果(添付資料)』)。

虐待発生要因

職員の個性や能力に合わせた効果的なOJTの実施は、虐待予防につながります。


しかし、人材をやりくりしてOJTを一定期間実施したとしても、高齢者の言動に、職員が戸惑い、オロオロしてしまう、あるいは、感情的に反応をしてしまう、どうしたらよいか悩んでしまう、といったことはいくらでもあると思います。それは、新人職員に限らないでしょう。


こうした体験を「失敗してしまった」「恥ずかしい」「思い出したくもない」「人に知られたくない」こととして、職員が自分の胸にしまい込んでしまうとしたら、それは、その人が未熟だからというよりも、職場の雰囲気や日頃の同僚間、職員評上司間のコミュニケーションに課題があるからではないでしょうか。


同僚評先輩『評職場リーダーに「ちょっといいですか?」と聞いてみる、あるいは、同僚評先輩評職場リーダーから「どうした?何かあった?」と声をかけてもらう。そして、そのとき何があったのか、自分はどう思ったのか、話を聞いてもらって、同じようなことがあったときにどうしたらよいのか一緒に考えてもらう。こうしたことが、職場の介護の質を上げることに、また、不適切介護や虐待の予防につながるはずです。


人材不足による過重負担は、職場からゆとりを奪ってしまいます。ゆとりのないところでは、スタッフ間のコミュニケーションは乏しくなりがちです。職場リーダーや管理職は、この点を常に証識し、コミュニケーションを活性化すべく、意識的に声がけをすることが求められます。


声がけをしたら、『「驚いてしまう」、『「理解しがたい」返事が職員から返ってくる、『「突飛な」、「新奇な」意見や質問が職員からなされる。そうした場合であっても、それらを否定せず受止める。そして、 心を寄せて状況に適切な質問をし、話しを聴く。良い/悪くない返事や質問『評意見には、感謝や称賛、ねぎらいなどの肯定的価機の言葉をかける。こうした職場リーダーや管理職の態度が、職場のコミュニケーションを活性化し、職場の「心理的安全性」を醸成します。


職場の「心理的安全性」とは、職場で質問や意見を言ったら、「そんなことも知らないのか?」「何を言っているの?」と言われるのではないか、職場に敵を作ってしまうのではないか、と心配することなく、安心して物が言える状態のことです。「心理的安全性」が高い職場は、離職率が低く、効果的なチームワークを可能にすると言われています。


『U ビジョン報告書』では、「利用者にかかわるすべての人が支援のあり方について発言できる場を作り、いろいろな側面から支援の方法を模索して実践できる体制が必要」と言っています。


私たち、安心づくり安全探しアプローチ研究会のメンバーである土屋典子が提案している「ちょこっとカンファ」は、そういう場づくりの一つの方法です。そしてこの方法は、職場の「心理的安全性」醸成に貢献します。


『「ちょこっとカンファ」は、介護の実践の場で行う、解決志向アプローチを援用した簡易的な事例検討法です。


職員がどうしてよいかわからないと困っているとき、職場リーダーが声をかけて、あるいは、当該職員が職場リーダーに申し出て、集まれるメンバーが短時間、集まり、みなで知恵を出し合います。


困っている場面やその類似場面で、意外にうまくいった/悪くなかったやり方(例外)を、また、やってみたちょっとした工夫(対))を探し出します。さらに、あらたにやってみたらという対)のアイデアを出し合います。みなでこれらを共有するとともに、当該職員は、やれそうなものをマネします。

 

できないこと、むずかしいことに焦点を当てて、その原因を掘り当てるより、なんとかできた方法、悪くなかったやり方、やってみたらうまくいくかもしれない方法を話合う。こうした話合いは、当該職員の気持ちを楽にします。安心して皆の前で困っていること、できないことなどを話すことができます。


このように、ストレングス(良い点、悪くない点)に焦点を当てた、肯定的なコミュニケーションは、職場に信頼感や支え合いの文化を生み出すとともに、職場の「心理的安全性」の醸成に寄与します。


また、この「ちょこっとカンファ」は、職場リーダーの負担を軽減します。1対1の個別指導や、職場メンバー全員への声がけは、職場リーダーに時間的、かつ精神的負担をもたらします。一方、「ちょこっとカンファ」では、その場面で集まれるメンバーが集まってみなで話し合います。職場リーダーの精神的負担はかなり違うはずです。


安心づくり安全探しアプローチ研究会では、「ちょこっとカンファ」の研修を行っています。ご要望があれば、安心づくり安全探しアプローチ研究会のホームページに掲載しているメールアドレスまで、ご連絡ください。


なお、以下のURLで「ちょこっとカンファ」の動画をごらんいただけます。世田谷区福祉人材育成評研修センターさんから了承を得ましたので、ご紹介させていただきます。
https://www.setagaya-jinzai.jp/news/article-20220531115935

 

2024年度AAA高齢者虐待防止研修会

毎年、9月に実施させていただいていますAAA高齢者虐待防止研修会は、都合により、本年は中止とさせていただきます。
 
研修会の情報を待っておられた方もいらっしゃるかもしれません。
ご連絡が大変遅くなり、申し訳ありません。
 
 
安心づくり安全探しアプローチ(AAA)研究会事務局

Uビジョン研究所報告(No4):職員配置基準

 4回目のテーマは、Uビジョン研究所が認証・評価事業を通して考察した、施設内虐待に関わる社会的な発生要因と対策です。

 『Uビジョン報告書』(『認証・評価機関から見た特別養護老人ホームの虐待事案における発生要因の分析と対策・考察~2022年9月~2023年12月までにメディアで報道された27件の虐待事案から~』(2024年3月)では、発生要因として、①職員配置基準の低さ、②安全最優先という考え方、③職員教育体制の不備、④経営者・管理者の社会的使命感の欠如、⑤監査実施率の低さ、をあげています(なおこれらの文言は、『Uビジョン報告書』の文章を副田がまとめて表現したものです)。

 

①職員配置基準の低さ、について『Uビジョン報告書』は、つぎのように述べています。

    施設入所者の要介護度(2022年度の平均要介護度3.97)や、認知症

    (認知症 日常生活自立度ランクⅡ以上が75.3%。2013年介護サービス施設・

    事業所調査による)、死亡退去者率(67.5%)の数字から、現在の特養が、

    介護にどれだけ人手を要する状態なのか容易に想像できる。

    

    それにもかかわらず、厚労省は重度者支援に適切に対応できる職員配置基準

    の見直しを、人権が守られる介護に必要な職員数の検討を行ってきていない。

    それどころか、令和6年度の介護報酬改定では、生産性向上(介護ロボット

    やICTの導入)に先進的に取組む施設には、特例として、職員配置を現行の

    3:1から3:09(入居者:介護職・看護職)に緩和するとしている。

    この緩和は、夜間帯の職員数を減らすことにつながり、生産性向上による

    職員の負担軽減をもたらさないし、夜間帯に多い虐待を防止することは

    できない。

 

 この職員配置基準の緩和は、「見守り機器等のテクノロジーの複数活用及び職員間の適切な役割分担の取組等により、生産性向上に先進的に取組む」特定施設に対して、「介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減が行われることを確認した上で」特例的に実施する(令和6年6月施行)というものです。

 

 特定施設は、ご承知のとおり、介護保険が適用される指定介護施設のことで、有料老人ホーム、ケアハウス、養護老人ホームサービス付き高齢者向け住宅(一部)がその対象です。これらの施設の入居者の要介護度は、一般的には、特養入所者のそれよりも低い。しかし今後、人材不足が一層進む中で、この動きが特養にも適用されていく可能性は否定できないでしょう。

 

 厚生労働省は、すでに令和3年の介護報酬改定時、従来型特養を対象として、見守り機器、インカム等のICTが導入されている場合(一定の条件あり)、夜間の人員配置基準を以下のように緩和するとしています。

    現行 利用者26~60人 職員2人以上 → 1.6人以上

            61~80人   3人以上 → 2.4人以上

               81~100人  4人以上 → 3.2人以上 (以下、略)

https://www8.cao.go.jp/kiseikaikaku/kisei/meeting/wg/2310_04medical/231120/medical02.pdf

 

 他方、全国老人福祉施設協議会は、令和4年に発表した『介護施設における介護サービスの生産性向上についてー規制改革推進会議医療介護ワーキンググループ提出資料―』の中で、生産性向上と職員配置基準について、つぎのように言っています。

     大幅な介護報酬改定は望めない中で、健全経営を維持するには生産性向上は

     不可避である。

     元気な高齢者等の介護助手としての活用、見守りセンサーや介護記録ソフト

     等のICTの活用等により、間接的業務の削減効果が期待できると評価され

     ている。

     だが、生産性向上の評価にあたっては、「ケアの質の向上」と「職場環境

     改善」の2つが適切に実現できたかどうかを総合的に把握することが重要

     である。

 

     本会の介護施設の現状は2.12:1であるが、これは利用者から求められ

     るケアの質を維持するための最低限の水準であって、3:1やこれを超える  

     水準であれば、以下の事項の実施は不可能または相当困難と言える。

        (1)運営基準できめられている週2回以上の入浴介助、(2)運営基準でき

        められている施設内の各種委員会や研修会の開催、(3)新人研修、(4)職

        員の有給休暇の取得、(5)レクリエーション、イベント、利用者とのコ

        ミュニケーション 等

     それゆえ、特殊条件の下で成立する基準を、介護施設一般に適用することが

     ないよう願いたい。

 

 言うまでもなく、上記の(1)~(5)の実施が困難な職場は、「ケアの質の向上」と「職場環境改善」が不可能な職場であり、虐待のリスクは高くなります。

 

 『Uビジョン報告書』は、「どんなにITを駆使しても人間のチェック機能が働く体制にしなければ、人の命を守ることはできない。」と言っています。全国老人福祉施設協議会の『介護施設における介護サービスの生産性向上について』では、職員配置基準の緩和については、上記の(1)~(5)が実施できるような「なんらかの特殊な措置を講ずることが必要」としています。

 

 人材不足という厳しい状況のなかで、生産性向上の取組みの導入と職員配置基準の緩和が不可避であるなら、ロボットやICTの導入への補助金よりも、アクティブシニアに加えて介護や福祉を学ぶ高校生・専門学校生・大学生等による介護助手活用により手厚く、継続的に補助金を出す、また、介護助手希望者の育成や施設とのマッチングを社協等が担うなど、種々の制度的支援をさらに充実していくべきではないでしょうか。

 生産性向上の取組みが職員配置数減で終わってしまうようであれば、虐待のリスクは高まります。

 

参考:

 厚生労働省『令和6年度介護報酬改定の主な事項について』

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001230330.pdf

全国老人福祉施設協議会介護施設における 介護サービスの生産性向上について』

medical02_0103.pdf (cao.go.jp『介護施設における介護サービスの生産性向上についてー規制改革推進会議医療介護ワーキンググループ提出資料―』)

Uビジョン研究所報告(No3): ネグレクトと心理的虐待

 3回目のテーマは、『Uビジョン報告書』)(『認証・評価機関から見た特別養護老人ホームの虐待事案における発生要因の分析と対策・考察~2022年9月~2023年12月までにメディアで報道された27件の虐待事案から~』(2024年3月)の指摘するネグレクトと心理的虐待の発生要因と対策についてです。

 

 報道された27件の事案のうち、【ネグレクト】は3事案、【心理的虐待】は11事案でした。ただし、【ネグレクト】のうちの1事案は、利用者55名のおむつ交換を怠っていたというものです(排泄用品が不足していたため、少し汚れても替えず一つのおむつを切って使っていた、そのため、衣類が濡れるほどの失禁もあった)。

 

 この施設では、前年にも同様のことが起きていることから、『Uビジョン報告書』では、物品管理など組織体制に本質的な課題があると指摘しています。

 

組織体制もさることながら、前年に同様の事案が発生したとき、行政がどのような指導をし、その後のフォローを行っていたのか、気になります。

 

『Uビジョン報告書』(特養ホームおける虐待の発生要因分析とまとめ.pdf (u-vision.org)によると、この事案以外にも、1施設で5件のネグレクトが判明したケースもあります。

「早くしてと言われる」「頻回にコールを押す」といったことが多いと、無視する、コールを外す、手の届かないところに置くといったネグレクトが、職員の少なくなる時間帯に多く発生しやすい。

 

認知症の人に対する「うるさい」「黙っとけ」「座っとけ」などの暴言や、83歳の女性への「ボケが、死ね」「気持ち悪い、死ね」といった発言などの心理的虐待は、ネグレクトがエスカレートしたと言えるケースが多い。

 

「何度言ってもわからない」「同じことを繰り返し聞く」「要求が多い」といった場面で起きやすいネグレクトや心理的虐待は、気づいている職員がいてもなかなか通報されず、数年単位で行われていた事案もある。

 

これらの背景には、職員がノルマに追われたり、支援が必要な人を一人で複数人みなければならないといった状況がある。こうした状況が常態化すると、不適切な態度、言葉が無意識行動になって習慣化していく。

 

『Uビジョン報告書』は、このように指摘した上で、習慣化している言動は研修だけでは改善されず、一つ一つの場面で注意(相手の自尊心に配慮しながら)していくことで意識化できるよう根気よく指導していくことが有効と言っています。ただ、習慣化した言動が長年続いていたとしたら、指導してもよくなる可能性は低いとも言っています。

 

たしかに、習慣化している乱暴な態度や言葉は、介護の理念や倫理、知識、技術等を研修で学ぶだけでは変わらないでしょう。また、日常的にそうした言動を繰り返す職員は、利用者だけでなく、周囲の職員にも威圧的な態度を示す人であったり、同じような言動をする職員が複数いる、といったことがあるかもしれません。そうなると、先輩や上司の個別的な指導もなかなかむずかしいと想像されます。

 

組織の職員体制を見直し、職員の過重労働の改善を図るといった状況改善は必須です。それとともに、ちょっと気になる(「虐待の芽」とも言えるような、ちょっとよくないなと感じられる)言動や状態に気づいたら、その職員が躊躇せずできるだけ早い段階で相談できるよう、相談窓口(上司や虐待防止委員会の相談担当者等)を職員全員に周知しておく、また、受けた相談については、上司や相談担当者、施設管理職等が、相談者・気になる言動をした当該職員・周囲の職員等へのていねいな聞き取り調査を慎重に実施する、といったことが必要です。

そして、その結果をもとに、必要に応じて施設長等とも相談し、対応(当該職員との話し合いや個別指導、職場全体での話し合いやミニカンファレンス等)を検討していくことが求められます。

 

もちろん、虐待やその恐れに気づいた職員が、行政や警察に直接相談・通報することも取るべき対処の一つです。実際、厚生労働省『令和4年度度高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果』でも、相談・通報者としてもっとも割合が高かったのが「当該施設職員」です(全体の27.6%。)

 

ですが、虐待やそのおそれの状況に至る前の、ちょっと気になる段階で気づき、対処すること、習慣化させないことがやはり重要でしょう。気づきと相談を促すためには、体制づくりとともに、職場での同僚間・同僚上司間のコミュニケーションの円滑化や、職場における心理的安全性の確保も必要です。これらについては後日、触れたいと思います。

 

なお、ていねいな聞き取り調査や話し合いにおいても、また、個別指導や職場全体でのミニカンファレンスなどにおいても、職場や仕事の現状について一通り聞いたら、当該職員や同僚、職場のストレングス(強み、よい点、悪くはない点等)・資源を引き出す/発見する質問をする、そして、引き出した/発見したストレングス・資源について、コンプリメント(それはいい、それなりによくやっている、それができているというのは素晴らしい、といったプラスの評価)をする。気になる点や課題等を確認する質問は、これらの後のほうがしやすいはずです。

 

明確になったストレングスや資源を、また、気になる点や課題を踏まえた上で、今後の目標、たとえば、1年後にどのような介護者になっていたいのか、どのような職場になっていたらよいと思うのか、具体的なイメージを話し合う、そのイメージに到達するには何をタスクとしていけばよいかを話し合う。こうしたやり方も、対応の一つの方法と考えます。

 

施設従事者等による虐待に関するUビジョン研究所報告(No2)

 2回目のテーマは、Uビジョン研究所の『認証・評価機関から見た特別養護老人ホームの虐待事案における発生要因の分析と対策・考察~2022年9月~2023年12月までにメディアで報道された27件の虐待事案から~』(2024年3月。以下、『Uビジョン報告書』)が、虐待の種類ごとに指摘している発生要因と対策についてです。

 

 報道された27件の事案のうち、【身体的虐待】は20件で、そのうちの5件が傷害致死の事例でした。

『Uビジョン報告書』では、近年、傷害致死が多くなっているとし、その理由として、利用者の重度化により、職員の怒りに任せた力加減のない暴力が重体をもたらしているとしています。

 

「虐待の動機」を抽出できたのは27例中の7例のみだったようですが、その中で多かったのは、やはり、以下のような怒りやイライラという否定的感情でした。

 ・入居者からおなかが痛いと訴えがあり、確認して「特に異常がない」と言ったら、「バカだからわからない」などと言われて激怒した。

 ・日中、10名を一人で見守りしているとき、他の人の介助も必要な状況のなかでいろいろ頼まれ、「気が利かない」と言われて腹が立ち、衝動的に蹴ってしまった。

 ・介護のストレスがたまっていて、イライラを抑えきれなかった。

 ・夜中に言うことを聞かず、歩き回るからイライラしてやった。

 ・言うことを聞いてもらえず、イライラしていた。

 

『Uビジョン報告書』は、職員が怒りに任せて暴力を振るってしまう背景と対策について、その豊富な施設現場の訪問・観察・評価経験をもとに、次のように言っています。

 

日常的に入居者の暴言・暴力を受け、同僚や上司に相談したが対応してくれなかったという傷害致死事例に見られるように、利用者の対応に困っている、不安を感じている、やるべきことが多すぎて対応できないといった職員に対して、真剣に向き合ってくれる人がおらず、孤立し、辛さに耐えながら負担を増幅させている。

 

組織は、職員が利用者から介護拒否や暴言・暴力、ハラスメントを受けていると分かった段階で真摯に向き合い、対応方法についてスタッフみんなで対応する必要がある。

 

抽出できた7件の「虐待の動機」の中には、「いじめると反応が面白く、いじめ感覚だった」というものも1件ありました。

しかし、施設内で起きる虐待には、『Uビジョン報告書』が抽出した上記のような利用者に対する怒りやイライラが抑えきれず衝動的に暴力に至ったものが多いのではないかと思われます。

 

増え続ける業務量に対して人材不足が著しく、過重負担が強まるなかで、職員は強いストレスを抱えがちです。利用者の拒否的態度やハラスメント行為は、こうした環境のなかでこそ発生しがちです。しかし、多忙で、強いストレス下にある個々の職員は、こうした状況に気づきにくく、利用者のそうした態度や行為によって、イライラや怒りを感じやすくなっていると考えられます。

 

イライラや怒りが身体的・心理的暴力の引き金とならないようにする、ストッパーの役目を果たすのは、やはり職場のコミュニケーションです。

新人であれベテランであれ、同僚や先輩、上司に’SOS’、’Help me’を言えること、つまり、「〇〇さんのことで相談したい」、「〇〇さんのことについて意見を聞きたい」と伝えられること、そして、同僚や先輩、上司が真剣にそれを聞いてくれ、一緒に対応を考えてくれること、です。

 

一度や二度はグッとがまんをし、同僚や上司に相談した、でもちゃんと話を聞いてくれなかった、一応聞いてくれたが結局なにも対応してくれなかった、あるいはまた、そもそも相談できるような雰囲気の職場ではない、頼れるような同僚や先輩、上司はいない、といった状況であれば、『Uビジョン報告書』も指摘するように、引き金は簡単にはずれます。

 

一緒に対応を考える方法として、AAAでは土屋典子たちが「ちょこっとカンファ」を提案しています。これは、職場のコミュニケーションを活性化させる方法の一つとも言えますが、これについては後日、改めて触れることにします。

 

最後に一言。要介護者という「弱者への支援者」といった感覚を職員がもっていると、利用者の拒否的態度やハラスメントにイライラや怒りを覚えやすくなるかもしれません。イライラや怒りの感情は、自分の思うようにいかない場合に起こりやすい。「(あなたのために)〇〇してあげたのに、なんで、、、」「〇〇しましょうと言ったのに、なんで、、、」と。

 

利用者の重度化によって、利用者を主体として捉える意識は弱くなるおそれがあります。支援していると思いながら、利用者が何によってそういう態度や行為を取るに至ったのか考えることがおろそかになり、利用者をコントロールしたいという無意識の願望がさえぎられることで苛立ってしまう。

 

時間的、精神的にゆとりのない職場環境が、こうした傾向を助長します。職場環境のありようについては、後日また述べることにします。

 

次の第3回は、ネグレクトと心理的・精神的虐待についてです。

特養の虐待事案に関するUビジョン研究所報告から No1

 厚生労働省が発表した『令和4年度度高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果』によると、養護者による虐待と判断された件数は16,669件でした。前年度より1.5%の増加です。一方、介護施設従事者等による虐待は、856件で、前年度より15.8%の増加となっています。

 虐待のあった施設等のうち、過去にも虐待が発生していた割合は21.3%でした。つまり、全体の5分の1は虐待を繰り返している施設等、行政の「指導等」が効果を奏していない施設等です。

 このたび、公益財団法人Uビジョン研究所(理事長 本間郁子氏 高齢者生活施設の認証・評価を行う機関として活動)が、『認証・評価機関から見た特別養護老人ホームの虐待事案における発生要因の分析と対策・考察~2022年9月~2023年12月までにメディアで報道された27件の虐待事案から~』(2024年3月。以下、『Uビジョン報告書』と略記(特養ホームおける虐待の発生要因分析とまとめ.pdf (u-vision.org))を発表しました。

 『Uビジョン報告書』が扱ったメディア情報は、データとして限られたものだと思いますが、Uビジョン研究所は、一定の見識と豊富な施設現場の訪問・観察・評価経験をもとに、その情報の分析と対策の提言を行っています。そこには、高齢者虐待防止研修に携わってきた者として、頷けるものが多くありました。

 そこで、この『Uビジョン報告書』の内容を何回かに分けてお伝えし、若干のコメントをしていこうと思います。 

 まず今回は、『Uビジョン報告書』が取り上げた27の虐待事案のいくつかを紹介します。

 【身体的虐待】 ・87歳の女性を床に引き倒し、左足の太ももの骨を折る重傷を負わせた。・92歳の女性の頭を平手で殴り、両腕を枝のように折った。反応がなくなったのでポットのお湯をかけた。死亡。

 【介護放棄】 ・おむつ交換を怠った。紙おむつや尿漏れパットが不足したため、55名に必要なおむつ交換をせず、紙おむつの一部を切り取ってパッド代わりに使用。さらに、おむつ交換せず、衣類が濡れるほど失禁させていた。(他にも心理的虐待、経済的虐待を認定)

 【心理的虐待】 ・3人くらいの入居者に「おむつにするんだよ」「なんで立てないのにトレイに行くの?」「早くやれ」「何やってんだよ」と暴言。

(『認証・評価機関から見た特別養護老人ホームの虐待事案における発生要因の分析と対策・考察~2022年9月~2023年12月までにメディアで報道された27件の虐待事案から~』より)