被虐待高齢者のゴール・家族のゴール・援助職のゴール

前回に引き続き、AAAの研修参加者のお一人からいただきました2番めの質問と、それに対するお答えをアップします。

少々長くなりますが、ご容赦ください。

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Q2:
被虐待者の思いを聞き取る、その思いを実現させる、そのことと、虐待対応の終結像は不可分と思うが、それをどのように位置づけているのか。

被虐待高齢者の自己決定を支えるプロセスは、支援者が目指すゴールと養護者の描く解決像との関係の中で、どのように位置づけるのか。できれば具体的に説明してほしい。


A2:
このご質問はもっともなご質問だと思います。

少し言い訳になりますが、AAAの最初の研修のときには、被虐待高齢者との関係づくりも意識し、それを研修で触れていました。

また、AAAのケースカンファレンス様式には、「本人はどうなっていたらよいか」「介護者はどうなっていたらよいか」「援助職はどんな関わりがしたいか」と3者のゴールを確認する欄を設けています。


 しかし、研修を何回か重ねていくうちに、限られた時間のなかで、できるだけシンプルに、私たちがもっとも言いたいことが明確に伝わるようにするには、虐待する家族との関係づくりに焦点をあててお話したほうがよい、というふうになってきたと思います。

 また、よほど酷い危害状況でなければ、被虐待高齢者は、できるだけ自分の家で暮らし続けたいと思っているだろう、という思い込みも端折ってしまった背景にあったのかもしれません。


 被虐待者本人との関係づくりについて、また、ご本人がどうしたいと思っているかを聞き出していくことについて、さらに、本人がどうなっていたらよいと思うことと、介護者がどうなっていたらよいと思うことがかなりズレている場合にはどうするか、といったことについてほとんど触れない形で研修を行うスタイルになっていきました。


しかし、本当にいろいろなケースがあるでしょうから、ご指摘のように、被虐待高齢者の自己決定を支援するプロセスや、そのプロセスと養護者の解決像づくりの支援とどう関係させればよいのかという点について、研修のなかできちんとお伝えしたほうがよいとは思います。


被虐待高齢者のゴール設定と養護者のゴール設定とをどのように関連づければよいのか、具体例で説明を、というご要望にお答えるとするとなると、うまくいくかどうかわからないのですが、以下のようなものではいかがでしょうか?(十分な情報を入れて書くことはできないかと思います)


CMさんから包括に連絡があった例(架空の事例です):


80代後半のAさん(女性、要介護1)は、記憶力の低下が進んできている。60代の次男と同居。Aさんは、週2回デイサービス、週2ヘルパーを利用している。Aさんはデイセンターのスタッフに口達者、という印象をもたれているが、次男に向かって、「(かなり前に死んだ)長男のほうがやさしかった」などと嫌味なことを言うことがあるらしい。


以前、次男から、イライラしているときに母親にこういった嫌味を言われ、腹が立ってついなぐってしまった、と聞いたことがある。
今回は何が原因かわからないが、デイサービスセンターから、母親が「息子がこわいから帰りたくない、と言っている」と連絡があった。センターに行って母親に会って聞いたけれど、何があったかはよくわからなかった。ただし、帰りたくないと言っているのは事実。


CMと包括ワーカーBは、相談の上、緊急ショートステイの利用を検討。行政に連絡し、電話による緊急カンファレンスを行い、緊急ショートの手配を依頼。そして、Bと行政ワーカーCがCMの紹介という形で家庭訪問をし、「お母さんが帰りたくない」と主張されたので、と事情を説明して次男から話を聞く。


一昨日と昨日、嫌味を言われてカットなり、母親の顔を殴ってしまった、でも反省している。母親を老人ホームに入れることは考えていない、ということであった。お母さんのお世話で疲れておられると、イライラもしてしまう、とりあえず、1Wほどお預かりするので、疲れをとってください、というように言って、ショートステイを了承してもらう。


家庭訪問の翌日、関係者によるケースカンファレンスでゴールを設定;
家庭訪問時に観察したところ、家のなかは乱雑。デイサービスやヘルパーからも、次男は母親の世話はあまりやっていない様子との情報もある。


Aさんの認知症が進むようであれば、次男の暴力はさらに繰り返されるおそれがある。Aさんがホームに慣れ、このままホーム入所のほうがよいというのであれば、Aさんの安全のために、このまま分離を継続し、緊急ショートから老健かホーム入所とする。やむを得ない措置ではなく、次男に同意してもらい介護保険による入所とする。


ショートステイにいるAさんをCMが訪問し、ホームの生活について満足しているかどうか聞いた上で、しばらくここにいた後の生活は、どこでどういうふうな生活であったらよいか、具体的に聞いていく。
1回だけではなく、2回訪問して聞いても、ここ(ホーム)で面倒をみてもらっているのがよい、というのであれば、Aさんのゴールはホームでの暮らしと理解する。


その間、包括のBは、次男を再訪問し、Aさんが1日家にいるときの生活と、次男の介護の様子について、タイムシートを用いながら話を聞く。
あまり世話をしていないというのも、イライラから母親に暴力を振るったり怒鳴ったりする機会を減らすための次男なりの工夫かもしれないので、ていねいに話を聞き、次男なりの考えや思いを次男が聞いてもらえたと思えるような会話を行う。


次男といろいろ話せる関係ができてくれば、さらに、安心づくりシートを用いた暴力のパターンやその例外の確認、次男のリソースや価値観などをていねいに聞く。こうしたことを通して、次男が、今後は、ストレスから開放されて暮らしたい、そのためには、母親とはときどき会う生活がよい、母親も老人ホームのほうが安心して暮らせるというのなら、それでよい、と言うようになれば、それを次男のゴールとして理解する。


以上とは異なり、Aさんが、緊急入所中のCMとの面接を通して何度も「自宅に戻りたい」と言うのであれば、また、次男も「怒鳴ったり殴ったりしないようにする、母親をホームには入れたくない」と言うのであれば、2回目のケースカンファレンスを開き、初回のケースカンファレンスで設定したゴールを変更。


Aさんと次男が安心して同居生活を送っている状況とは、具体的には、次男がストレスを適宜発散できている、母親にイライラするときにはそのことを誰かに話せている、母親は今よりも次男と離れている時間帯を増やしている、などとする。

ただし、次男のストレスの発散や、イライラするときの話し相手、母親が次男と離れている時間帯を増やす、というための方法については、以下のようにして、Aさんや次男に考えてもらう。


CMはAさんに、包括Bは次男に、安心して暮らせている状況、こうであったらよいという状況はどのようなものか、それは今とは何がちがっているか、などと聞いて、かれらのゴールを思い描いいてもらい、それが、2度目のケースカンファレンスで設定した援助者側のゴールの線に沿ったものであれば、そのためにとりあえずできそうなことは何かを聞いていく。


援助者側の設定するゴールが、Aさん、次男の希望を踏まえた上でのものであるので、Aさん、次男が話をしていった結果描く解決像は、援助者側のゴールからくはみ出すようなものにはならない。


なお、Aさんが重い認知症で、危害状況も重篤であるといったような場合は、これまでの対応とは異なってくると思います。


長くなった割には、ご質問に沿った回答になっていないような気がします。少しずれた回答になったかもしれませんが、ここでいったん、このご質問への回答は切らせていただきます。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(副田)